マルチな才能は欲しいけど、マルチ商法はイヤ

大学出て社会人になって2年目だったと思うけど、だとしたら6年ぶりで高校の同級生から突然自宅アパートに電話がかかってきた。

(どうしてうちの電話番号知ってるんだ?)

一浪して一橋大学の商学部に行った奴だ。

真面目な奴だった。確か高3の時、学級委員だった。

近況報告で盛り上がり、久しぶりに会って飲もうと誘われた。

仕事が忙しかったから断ろうと思ったのだが、

「紹介したい女性連れていくからさ」

仕事は二の次になってしまった。

待ち合わせた渋谷のルノアール。

俺は激しく後悔することになる。

彼がマルチ商法について熱く語りだしたから。

しばらくすると先輩と称する女が現れた。

浄水器とか色んな商品が掲載されたカタログを、まずは買えと言う。

確か3万円だったと記憶している。

通販のカタログは普通無料だろ!

載ってる商品もディスカウントストアでもっと安く買えるわ! 

とにかくその場での契約を迫る彼らは、俺が良く考えてからにしますと返答すると、「決断力が無い」だの「先行者利益」だの、まくし立てた。

先輩と称する女は美人だった。

とにかくよく喋る。

真っ赤な口紅。

唇のオバケかと思った。

ネズミ講じゃないですか?と、はっきり言ってやった。

そしたらデストリビューターだかなんだか忘れたけど、もう一度フローを聞かされる羽目になった。

全然成功する事業とは思えなかったので、その場でサヨナラした。

しかし、マルチ商法に侵されたこの同級生は、とにかくしつこかった。

留守電パンクするくらい。

当時そこそこ大きな金融機関の本社に勤めていた俺は、やむなく自分の勤務先に呼びだした。

アウェーの後はホームだ。

本社の応接室でもう一度話を聞くことにした。

奴はのこのこやって来た。

相変わらずベラベラ良く喋る。

右から左に受け流して

「ふーん。そんなに確実に儲かるなら、うちの会社と提携しようよ。正式な企画書作って持って来て。うちで企画会議にかけるから」

そう言って追い返してから、二度と連絡が来なくなった。